グラスルーツ・マガジンズ ー文芸編ー

文芸誌『紫苑』仙台白百合学園高等学校 文芸部

文芸誌『紫苑』仙台白百合学園高等学校 文芸部1
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インタビュー:仙台白百合学園高等学校 文芸部〈部誌『紫苑』発行〉


◆仙台白百合学園高校の文芸部は、毎年1回部誌『紫苑』を発行している。創作だけでなく、インタビューや研究レポートなどの特集も充実した「総合文芸誌」だ。顧問の平井みどり先生は、『紫苑』が現在の形になった2003年から指導にあたっている。


◇私が編集に関わった初めての『紫苑』は、2003年(平成15)3月に発行した36号です。2名しかいなかった部員が頑張っているのを見て、私も短歌を寄せました。それ以前は部員たちの文集として作成していたのです。

 部誌を作る面白さを感じていたところ、新年度になって本づくりに意欲を持つ新入生が入ってきました。掲載する作品だけでなく、特集記事や表紙のデザインにも一生懸命です。彼女に引っ張られるようにして、私も力が入りました。

 何とか作り上げたところ、これが思いがけず県のコンクールで最優秀賞をいただき、さらには全国コンクールでも入賞します。本当に驚きました。うれしさの余り、部員たちと夕日に向かってジャンプをしてしまったほどです(笑)。

 「もっと頑張ろう」と思い、素晴らしい小説を書く生徒に作品を掲載するよう声をかけたりするうち、内容もデザインも年々充実していきました。仙台にお住まいのプロの小説家である佐伯一麦先生や熊谷達也先生のインタビューを掲載したり、伊坂幸太郎先生にメールでご質問にお答えいただくなど、高校生が作る文芸誌としては大変高い水準にあると自負しています。


◆『紫苑』は全国的にも高く評価され続けている。2012年度の「全国高等学校文芸コンクール」(*01)文芸部誌部門では最優秀賞に輝き、その後も入賞を継続中。「高校文芸誌コンクール」(*02)でも2006年、07年と連続で最優秀奨励賞を受賞した。掲載作品も、毎年さまざまな部門ごとの賞を受けている。また部は、地域代表として「松山俳句甲子園」(*03)や「全国高校生短歌大会」(*04)にもたびたび出場するなど活躍中だ。


◇宮城県の高校文芸コンクールの運営にも携わっていますが、小説部門の審査を佐伯先生らにお願いするなど、こちらにも力を注いできました。部誌部門では『紫苑』が、初年度から11年連続で最優秀賞をいただいています。

 私も編集者としての楽しさを味わわせてもらってきましたが、『紫苑』のおかげ、生徒たちのおかげです。俳句について勉強した際にはあらためてその魅力を知ることができましたし、亡くなられた民話研究家の佐々木徳夫さんにお話をうかがう機会も得られました。

 2006年(平成18)の40号からは、8月の末にある学園祭に合わせて発行することにしました。年に1度部誌を作る以外にも文芸部の活動は忙しく、印刷に間に合うように準備を進めるのは毎年大変です。2009年(平成21)の夏に三重県で行われた「全国高等学校総合文化祭」に参加した時には、表紙を担当する生徒と、宿舎で徹夜をしてパソコンに向かいました。

 一時は13名の部員がいたこともあったのですが、現在は3名です。今日は卒業式だったので、元部員のOG3名も来て、一緒に取材を受けてくれることになりました。今年8月に出す次号の準備は、もう始まっています。伝統を作ってきた先輩たちの後を受ける生徒たちは大変だと思いますが、ぜひ頑張って、良い『紫苑』を作ってほしいです。


◆『紫苑』の編集に携わった卒業生3名に、当時の思い出と今の気持ちを聞いた。


◇佐藤幸(さとう・みゆき)さん〈2010年度『紫苑』44号編集担当〉

 44号のときの部長です。一つ上の先輩方は多かったのですが、私たちの学年は2名、後輩は1名だけで大変でした。部誌が連続で受賞していたプレッシャーも大きく、楽しもうと思って入部してきた生徒たちが退部してしまったこともありました。

 俳人の夏井いつき先生にインタビューをさせていただいたり、暗闇で音を聞いて俳句を作る「音俳句」のワークショップをレポートするなど、「もしかしたらこの号が最後になってしまうかも」という想いで頑張りました。3年生で受験も心配でしたが、教室にいる時間よりも、部室で作業をしたり職員室で平井先生と議論したりしている時間の方が長かったと思います(笑)。

 今見ると本当に懐かしく、一生懸命に文芸に向き合っていたあの頃の気持ちを思い出します。作品を書くことは一人でもできますが、部誌は仲間がいなければ作れません。『紫苑』があって、文芸部があって、仲間がいて、はじめて一つのものになるんだな、とあらためて思いました。


◇加藤晴香(かとう・はるか)さん〈2011年度『紫苑』45号編集担当〉

 45号を担当しました。私たちの学年は私1人で、後輩が5人いましたが、部誌作りは全くの未経験で、ゼロからというよりマイナスからの出発という感じでした。

 この年は3月に東日本大震災がありました。でも震災の後、新年度になって後輩たちが入ってきてくれた時は本当にうれしかったです。先輩たちから受け継いだ『紫苑』を何とかして後輩たちにつながなければと、必死だったことを思い出します。

《平井先生》この号のテーマは「祈りと共に」です。震災の経験を詩やエッセイで表現しましたが、作品を作ったり部誌を作ったりしている場合だろうかという気持ちは、生徒たちにも常にあり、悩みの多い号になりました。


◇宮田結子(みやた・ゆいこ)さん〈2012年度『紫苑』46号編集担当〉

 46号の編集長です。「花のように」というテーマで、随筆家の白洲正子やフランスのジャンヌ・ダルクを取り上げたり、部員全員がリレーでオムニバス小説を書いたりしました。また、東日本大震災時の支援を機に交流が始まったポーランドから来た生徒の方々にお話を聞いたり、英語俳句のコンクールを取材して、部員の一人が自分でも英語での俳句作りに挑んだりしています。

 内容は最初から決めていたわけではなく、その時その時できることを形にしているうちに、全体のテーマや構成が固まっていった感じでした。「全国高等学校文芸コンクール」の文芸部誌部門で最優秀賞と文部科学大臣賞をいただきましたが、他の部員が書いた記事や小説が面白く、今読み返しても一読者として楽しめるものになっていると思います。

 これも平井先生のご指導のおかげです。企画や原稿をボツにされるなど何度もぶつかり合いましたが、それが実は職員室で「名物」になっていたことを後で知りました(笑)。


◆現在の文芸部員は3名。部の歴史と『紫苑』の伝統を受け継ぐことへの想いを聞いた。


◇菅野早織(かんの・さおり)さん〈2年生〉

 1年生で47号、2年生で昨年発行の48号に参加しました。47号は入部の時点で宮澤賢治を特集することが決まっていて、座談会に加わったり調べものに取り組みました。ポーランドとの交流では、日本の文学について質問して答えていただいたり、ポーランドに行った先輩の体験記を掲載したりしています。

 48号では俳句を特集し、宮城県で「小熊座」を主宰しておられる高野ムツオ先生にお話をうかがいました。私も詩、短歌、俳句、小説を書いています。ただこの号は特集の内容を決めるのが遅くなり、完成は本当にギリギリでした。平井先生にだいぶお手伝いいただきましたが、もう少し一つ一つに時間をかけていればと反省しています。


◇佐竹由羽(さたけ・ゆう)さん〈1年生〉

 今年度の48号に、小説や短歌、俳句を発表しています。今まで作品を書いたことがなかったため、いろいろと模索しながら何とか完成させました。本当に無我夢中で、「よく書けたな」と思っています。

 『紫苑』の伝統にプレッシャーを感じて、大変だった時期もありました。でも今度発行する次号も、頑張って書きたいと思います。


◇小沼来実(こぬま・くるみ)さん〈1年生〉

 まったくの初心者でしたが、平井先生のご指導のおかげで、48号に詩、俳句、小説などを書くことができました。次の号では特集にもしっかり関わりたいです。

 私は小学校・中学校も白百合学園だったので、高校の学園祭を見学した時に『紫苑』の存在を知っていました。受賞の楯も展示してあって伝統に感動しましたが、自分が文芸部に入るとは思っていませんでした。今は先輩方が築いてきた歴史を守れるように、頑張りたいと思っています。

(インタビュー:2015年3月2日)


*01:全国高等学校文化連盟・読売新聞社主催

公式サイト http://www.kobunren.or.jp/enterprise/contest/

*02:梅光学院大学主催

現在はコンクールを終了し「文芸創作広場」に移行

*03:俳句甲子園実行委員会主催

公式サイト http://www.haikukoushien.com

*04:全国高校生短歌大会実行委員会主催

公式サイト http://www.moriokabrand.com/tanka/

〈取材・構成:大泉浩一〉