Diary亭日乗

五十嵐元次 陶店

山田衣純
五十嵐元次 陶展
「博多人形のガラスケースやね、
入れ歯用のケースのご注文をいただくこともあるんですよ。
よそのギャラリーの人としゃべってると、全然ちがうなあ、と思って。」

須田さんは、コーヒーを淹れながら、
穏やかに笑う。

石巻市内の商店街アイトピア。
履き物屋さんに、仕立て屋さん、昔ながらの商店が並ぶ中、
これまた江戸時代から続く陶器店「観慶丸本店」の向かいに、
イベントスペース「カンケイマルラボ」はある。
昨年の4月にオープンして以来、
暮らしを手ざわりのあるものにしてくれる作家さんの展示会や、
ワークショップを定期的に開催している。

須田さんは、本店とラボを行ったり来たりしながら、
電話をかけたり、カウンターで分厚いファイルをめくったり、
何やら思案顔だ。

3月の始め、Diaryで今月のイベントをチェックしていると、
「五十嵐元次」の名前が飛び込んできた。
数年前、仙台の光原社で子ども用の飯腕をもとめて以来、
五十嵐さんの白磁の大ファンなのだ。
丈夫で使いやすく、値段も手頃。
気持ちがざわついている時も、
しのぎにゆるりとたまる青みがかった釉薬を眺めていると、
不思議と心が落ち着いてくる。
震災で割れてしまったものもあるけれど、
漆で継いで、大切に使っている。

だから、今回の展示会は絶対に行こうと決めていた。
石巻は仙台から車で1時間と少し。
思っていたよりも近い。

須田さんは、五十嵐さんのカップにコーヒーを注いでくれた。
あら、このカップ、私も持ってます。
紅茶もいいけど、たっぷりコーヒー飲みたい時にいいですよねえ。

ひとしきり、五十嵐さんの器について、あれこれ話した後、
向かいの本店にも寄ってみた。
明るい店内には、日本の作家さんの器や、ニューヨークのリネンのコースター、
丁寧に刺繍されたインドの古布を使ったティーコゼーが並び、
奥の棚に、香炉や有田焼の飯腕、五月人形が飾ってある。

常連のおばあさんが、お嫁さんと一緒に杖をつきながら入ってきた。
若い人の新築祝いにグラスをあげたいんだけど、どれがいいかしら。
お店の人が、若い人ならシンプルなものがお好みかもしれませんね、と
テーブルにいくつかグラスを並べる。
お嫁さんと、もう一人お店の人が加わって、
ああでもないこうでもない、とわいわい品定めをしていて、
ちょっと微笑ましい。
入れ歯用のケースを注文したお客さんって、
このおばあさんかも。

4月は、建築家中村好文さんとカンボジアの万能布クロマーの展示会。
布好き、器好きの友だちの顔が浮かんだ。

来月はノリコちゃんを誘ってみよう。
きっと楽しい一日になるに違いない。


来月、また来ます、と約束して、店を出た。