Diary亭日乗
東北大学リベラルアーツサロン 第33回「憲法改正問題を考える」
山田衣純
東北大学リベラルアーツサロン 第33回「憲法改正問題を考える」
嫌な予感はしていた。
私の向かいに、60代ぐらいの男性が、どかっと腰を下ろした。
しばらくすると、彼は居眠りを始めた。
しょうがないなあ、とため息をつきながら、
レジュメを目で追う。
うっかり目を離すと、話のスピードについていけない。
今日は、東北大学が主催するリベラルアーツサロンにやって来た。
東北大学の先生の講義を聞いて、
一般の参加者が話し合うこの試みは、
月に一度、様々なテーマで開かれている。
今回のお題は、「憲法改正」。
先日、美術館講座に参加した折に偶然居合わせた友人と、
戦争と9条の話題になった。
美術館講座の講師が、戦前生まれで、
戦争中の話がふんだんに盛り込まれていたからだと思う。
憲法改正には何となく反対。
この「何となく」は、マズイらしい。
理路整然と反対の根拠を述べる彼女と話していて、
雰囲気に流されている自分が恥ずかしくなった。
そんな時、Diaryでリベラルアーツサロンを知った。
講師は、法学研究科の佐々木弘通教授。
憲法の専門家のお話を聞ける機会なんて、めったにない。
期待に胸を膨らませながら、片平キャンパスへ向かった。
でも、憲法の成り立ちから始まり、
9条の文言をばらして、法律用語を交えながら、
ひとうひとつ意味を確かめていくという地道な作業は、
私には難しすぎた。
いつの間にかメモをとる手が止まり、
佐々木先生が憲法の前文を読み始めた時、事件が起きた。
私の向かいで居眠りをしていた男性が、
突然「前文!まず前文を読めよ!
最初に前文を読まなきゃダメだろお!」と、
怒鳴ったのだ。
会場は静まり返り、先生の顔も一瞬凍り付いた。
平静を保って話を続けようとしたが、
男性は唾を飛ばしながら、
「憲法改正には断固反対!あんたの話は机上の空論だ!」と、
さらに食ってかかった。
こわい。
私はひたすらうつむいて、
頭上から降ってくる怒鳴り声が通り過ぎていくのを待っていた。
先生も憲法改正には反対の立場なのに。
ああ、もう帰りたい。
会場の雰囲気は険悪になるばかり。
すると、後ろの方に座っていた青年が、
激昂している男性を和やかにたしなめたのだ。
お見事。
こんな風に事態を収拾できる人になりたい。
「憲法が成立した1946年に身を置き、
想像力を働かせることで見えてくるものがある。」
という言葉が、心に残った今回のリベラルアーツサロン。
平和憲法を守る前に、
まず、自分自身が心穏やかでありたい。
学食で食べた鳥の照り焼きが、
思いのほかおいしくて、
ほっこりしながら帰ってきた。