Diary亭日乗

瑞巌寺杉道市

山田和佳子
瑞巌寺杉道市
3月24日AM9:15
姉からの電話。
「今日お茶しない?午後1時に松島の瑞巌寺で待ち合わせいいかな」。
語尾は優しいが内容は強引。
「何かあるの?」
「瑞巌寺杉道市。一緒にどう?」
「どうって。」夫は久しぶりの平日の休日。4歳のこどもと3人で過ごしたい気もする。
「行っておいで」。夫がこどもとじゃれながら手を振る。
「ママいってらっしゃい」。こどものはしゃぐ声。断る理由がなくなった。
「わかった。1時ね」

45号線を松島に向かって車を走らせる。

姉は優秀な人。涼しげな目鼻立ち。建築の仕事をしている。
私は平凡。成績、顔立ち全て平均。姉とは比べきれない程の差がある。
姉は忙しいせいだろうか、3つ年上だがまだ独身。
でもなんでわざわざ松島でお茶なんだろう。

もうすぐ1時。松島に到着。日差しは春だが、風はまだ冬。
松島は寒くても観光地。観光客で賑わう。

「ねえさん」。瑞巌寺の前で景色を眺める姉。二人並んで瑞巌寺に入る。
参道に赤いのぼりと緑色の屋根のテントが並ぶ。
瑞巌寺参道の両脇は杉がまっすぐに伸びる。静かな場所。
のぼりをたたむおじさん。もう店じまいの時間なのだろうか。
「もうおわりですか?」と声をかけてみる。
「まだいいよ」。
七味唐辛子の原料が並ぶ。ここは七味唐辛子をその場で調合してくれるお店。以前にもここの七味を購入したことがある。でもおじさんの雰囲気が違う。以前は顎鬚が無かったし、もう少し豪快だった気がする。
「津波で家持っていかれちゃってさ。それから鬚伸ばしてんだ。すっかり丸くなったでしょ。苦労してんだぞ」。笑い話をするように身の上を話してくれた。
「覚えていてくれてありがと」。七味を1個おまけにもらう。

「お茶にしよう」。近くの甘味処に入る。
「海外転勤が決まった。今月中に立つから」。急に話を切り出す姉。
「当分日本には帰ってこない予定だから。二人でゆっくり散歩したかったの」。
「でもなんで松島?」
「これ」。姉がバックからDiaryを取り出す。
「Diary見ながら出かけたいって言ってたでしょ」。
私は子育てに追われて自分の時間を持てない。楽しみはDiaryを見ることだ。

「おまけしてもらったんでしょ。いいな。みんなに好かれて。羨ましい」。
「?」
「私にはない魅力もってて羨ましい」。
「姉さんなんて魅力たくさんあるでしょ」。照れながらいう。
「あなたは私の自慢の妹よ。このまま幸せでいてね」。
「お待たせしました」。運ばれてきた甘味。
「姉さんも幸せにね」。二人で甘味を口にして微笑んだ。